福祉サービスは芸術である
社会福祉法人みその児童福祉会
理事長 江草安彦
福祉現場で福祉サービスに従事する私たちは、社会保障制度の現状と行方について関心をもち、市民共生の方向を目指す新しい時代の先頭に立たねばならない。だが、現場人にとっては、日々の福祉サービスこそが最大の任務である。いささかも手抜かりがあってはならない。福祉サービスは、福祉関係の諸法律に基づいて、一人ひとりの市民が求める生活の実現を支援するものだと考える向きがあるが、実は法律に規定されている福祉サービスは、定型的、平均的、標準的なものにすぎない。ところが一人ひとりの求める福祉ニーズは、百人百色というほど同一のものはない。ニーズのとらえ方が狭く、マニュアルどおりの福祉サービスでは満足してもらえない。福祉の枠にとらわれないサービスが必要なことがある。福祉サービスに従事する者、ことに法人理事長、施設長はこの点に十分に目を向けることが大切だ。
福祉サービスには絶えざる深化、進化が必要である。その「鍵」はサービスに従事する職員の絶え間ない自己変革であろう。「福祉は人である」「教育は人である」「医療は人である」と古来言われてきたが、ハード面の整備、マニュアルどおりのサービスを超えた細やかなサービスを提供するためには、絶えず福祉の本質を求め、自己改新をつづけねばならない。福祉ニーズをまるごと受けとめる知識、感性を持ち、ニーズに応える福祉サービスを提供できる人が、福祉の価値を決める。サービス提供者は「自己の満足」より、「相手の満足」を考えることが大切だ。サービスは人の真似でなく、相手により、また同じ相手でも場面により微妙に変えねばならない。福祉サービスに従事する者はつねに相手の満足のために悩み、祈り続けることが大切である。福祉サービスが芸術であるといわれるゆえんは、祈りに支えられた創造的な努力の連続であるからだ。
※この論文は、社会福祉法人全国社会福祉協議会発行の「経営協」3月号(2005vol.255)に掲載された文章を転載しています。