命を繋ぐ
米子聖園天使園
園長 徳岡洋子
「園長先生、テッセンの花が咲いていますよ。あんな大きなテッセンは珍しいですよ」穏やかな春の昼下がり、職員の声に誘われ外に出た。人通りの少ない庭の片隅に、鮮やかな紫のテッセンの花が見事に咲いていた。「こんな所に咲いていたっけ…」職員の誘いがなければ気付かなかったかもしれない。暫く眺めた後周囲にも目を向けた。そこには淡いピンクの都忘れと白い小さなすずらんが寄り添うように咲いている。どの花も長く寒い冬を越えて春を迎えたものばかり。
命を繋ぎ、来年も再来年もずっと咲き続けるであろう。そんな花を眺めていると、この一年の様々な思いが蘇ってきた。
昨年春、児童養護施設に異動になるまで、私は乳児院に勤務していた。乳児院では、家庭に帰ることが出来ず児養養護施設へ移行せざるを得ない子ども達を多く見てきた。そして、施設での生活が長期化する中で、様々なトラブルから不安定になり、方向性を見失っていく子ども達に心を痛めていた。
乳児院の職員として成長を見守り続けたいという思いにも関わらず、施設を変わることで担当保育士との愛着関係が途切れ、関わりも希薄になっていった。隣接する施設同士でありながら、十分な連携が取れていなかったのではないか。施設間で連携をとり、より継続した支援に取り組まなければならない。そう強く感じていた。
私は児童養護施設に移り、子ども達の生活の想像以上の目まぐるしさと動きの速さに驚いた。子ども達を取り巻く環境の変化も大きく、毎日様々な出来事も起きる。エンドレスである。対応する職員は真剣に意欲的に取り組んでいる。乳児院にいては見えなかった多くのことが見えてきた。
子ども達にとって不安定な要因は数え切れない。生き辛さを抱える子ども達一人ひとりにあった支援を行うことは容易なことではないが、大人との信頼関係の回復のため、時間をかけ寄り添い続けることが養育、自立支援の基本であると強く感じる。
昨年は、両施設間で数名の職員の異動があったことに加え、両施設のリーダーで構成する運営合同会議において、課題であった施設間の連携について検討するよう指示をした。その結果、子ども達の育児の丁寧な繋ぎと、十分な慣らし保育の実施、移行後の行事や誕生日への前担当者の参加、合同の支援会議において情報を共有し、支援方針を見直す等の取り組みが行われ、職員一人ひとりが継続した支援の大切さを意識するようになった。今後も更なる連携の強化に努めたいと思う。
乳児院で守られた小さな命を、児童養護施設が受け継ぎ、育て、家庭や社会へと送り出す。施設は子ども達の成長の通過点であるが、その間は子ども達にとって安心、安定した大人との関係を築き、将来への自信をつけていく大切な時間である。
そこに関わる私たち職員に課せられた使命は大きい。子ども達を取り巻く環境が変わろうとも、人と人を繋ぎ、心と心を繋ぎ、命を繋いでいく。何が起きても諦めないで子ども達を守り続けるという覚悟を、私達職員は改めて認識しなければならない。
遠くに子ども達の声が聞こえる。一輪車の練習をする女の子の明るい声、キャッチボールをする高校生の元気な掛け声、ダンゴ虫ばかりを集めて奇声をあげている男の子。一年をふり返り、庭の片隅の花に思いを留めるひと時に感謝しつつ、穏やかな日常の中で、子ども達が命を繋ぎ健全に育ってくれることを願う。